熊本市の小学生がしゃべった英語
AppleのCEOのTim Cookさんが、熊本市の小学校を訪問したときの動画を見ました。
この学校は、「テクノロジーを用いた教育に力を入れている学校」として、日本で唯一アップルに認められた公立小学校だそうで、その関連でTim Cookさんが訪問したようです。
そこで、小さな女の子がTim Cookさんに、ipadのゲームについて、”It’s fun to do.”と言っていました。
このような小さい日本人の子が、この文を発したことは、結構驚くべきことだと思うのです。
その理由は、この文を、It’s fun to do this game. という文と比べるとわかります。
It’s fun to do this game. と It’s fun to do.の違い
It’s fun to do this game.と言った場合、主語のitは、いわゆる形式主語で、to do this(これをやること)を指しています。
このことを説明するのに、受験英語では、まず “To do this game is fun.”という文があって、To do this gameの部分が主語として長く頭でっかちなので、文の後に置かれる。それによって空いた主語の場所に、形式主語としてのitが置かれる、と説明したりします。
つまり、この場合、it は to do this gameを指している、ということです。
To do this game is fun.
↓
It is fun to do this game.
it = to do this game
それに対して、It’s fun to do.と言った場合、このitは何を指しているでしょうか?
通常は、このような場合、このitは具体的な何かを指しています。
この動画の場合でいうと、その前にこの女の子とTim Cookさんが話していた、ゲーム(アプリ?)のことです。
このitを代名詞でなく具体的な名詞で言うとしたら、例えば下記のようになるでしょう。
This game is fun to do.
「このゲームをするのは楽しい」
↓
It is fun to do.
「それをするのは楽しい」
it = this game
つまり、It is fun to do.と言った場合のitは、その前に話していた具体的な何かを指しているのです。
なぜこのような違いが生まれるか?
It’s fun to do this game.と It’s fun to do.では、最後にthis gameが付いているかいないかだけの違いですが、it が指すものに、どうしてこのような違いが生まれるのでしょうか?
それは、doが他動詞だ、ということと関連しています。
It’s fun to do.と言った場合、他動詞である do の後に、目的語が来ていないのはおかしいですね?
そこで、It’s fun to do. という文を聞いたネイティブの人は、おそらく、その目的語を探すのです。そして、それは、文の一番最初にある it だろうと考えるのです(私はネイティブではないので、これは推測ですが、あながち間違ってはいないと思います)。
私がこの文に対して持っているイメージは、下図のように、この文の最後にある do が文頭の it にかかっているようなものです。
このことは、最後が前置詞で終わるような文を見るとよくわかります。
下記のように、文が前置詞で終わるのは明らかにおかしいので、look at や listen toは、文の最初にある this picture や this songにかかると考えるのが自然でしょう。
This picture is nice to look at.
「この絵は見ていて気分がよい。」
This song is good to listen to.
「この歌は聞いていて心地よい。」
もう少し言語学的に考えると
これをもっと言語学の「変形」のような考え方を使って理解することもできます(私は最新の言語学の動向には疎いので、最新理論に照らして正しいかどうかはわからないのですが)。
(1) To do this game is fun.
↓
(2) It is fun to do this game.
↓
(3) This game is fun to do.
↓
(4) It is fun to do.
(1)の文が最初にあったとします。
To do this gameは主語として長いので、それをitで置き換え、to do this gameは文の最後に回すことにより、(2)の文ができると考えます。
ただ、「このゲームは楽しい」ということを言いたい場合、this gameを主語にしたいので、this gameを文頭に持ってきて、そこにあった it に置き換えると、(3)の文が出来上がります。
この場合、doは文の最後に置き去りにされますが、その意味上の目的語は、文頭のThis gameということになります。
最後に、文頭のThis gameを 代名詞 it に置き換えると、(4)が出来上がります。これが最初の女の子が言った It’s fun to do.という文です。
このよう考えると、(2)と(4)の文の関係や違いが見えてきます。
もちろん、最初に出てきた女の子は、こんなややこしいことを考えてそう言ったとは考えられません。
ただ、もしこの子が、この文の文頭の it が、そのゲームのことを指していると考えてこう言ったのであれば、結構すごいことだと思います。
この子の発音からして、この子はネイティブではなく、飽くまで外国語として英語を習ったと思われます。
外国語として英語を学習したにもかかわらず、もし、「これはやってて楽しいよ」という意味だと理解してこのように言ったのだとすれば…
こんな小さい子が、短い外国語学習の過程で、そのような言語感覚を獲得したということに、私は非常に驚くとともに感心するのです。