Wells教授のStandard Lexical Setの意味
Accents of Englishという本を書かれたJohn C. Wells教授が考案された、Standard Lexcial Setsというものがあります。
具体的には、下記の表にまとめられています(Wikipedia “Lexcial Set”より転載)。
no. | Keyword | GA | RP | Example words |
---|---|---|---|---|
1 | KIT | ɪ | ɪ | ship, sick, bridge, milk, myth, busy |
2 | DRESS | ɛ | e | step, neck, edge, shelf, friend, ready |
3 | TRAP | æ | æ | tap, back, badge, scalp, hand, cancel |
4 | LOT | ɑ | ɒ | stop, sock, dodge, romp, possible, quality |
5 | STRUT | ʌ | ʌ | cup, suck, budge, pulse, trunk, blood |
6 | FOOT | ʊ | ʊ | put, bush, full, good, look, wolf |
7 | BATH | æ | ɑː | staff, brass, ask, dance, sample, calf |
8 | CLOTH | ɔ | ɒ | cough, broth, cross, long, Boston |
9 | NURSE | ɜr | ɜː | hurt, lurk, urge, burst, jerk, term |
10 | FLEECE | i | iː | creep, speak, leave, feel, key, people |
11 | FACE | eɪ | eɪ | tape, cake, raid, veil, steak, day |
12 | PALM | ɑ | ɑː | psalm, father, bra, spa, lager |
13 | THOUGHT | ɔ | ɔː | taught, sauce, hawk, jaw, broad |
14 | GOAT | oʊ | əʊ | soap, joke, home, know, so, roll |
15 | GOOSE | u | uː | loop, shoot, tomb, mute, huge, view |
16 | PRICE | aɪ | aɪ | ripe, write, arrive, high, try, buy |
17 | CHOICE | ɔɪ | ɔɪ | adroit, noise, join, toy, royal |
18 | MOUTH | aʊ | aʊ | out, house, loud, count, crowd, cow |
19 | NEAR | ɪr | ɪə | beer, sincere, fear, beard, serum |
20 | SQUARE | ɛr | ɛə | care, fair, pear, where, scarce, vary |
21 | START | ɑr | ɑː | far, sharp, bark, carve, farm, heart |
22 | NORTH | ɔr | ɔː | for, war, short, scorch, born, warm |
23 | FORCE | or | ɔː | four, wore, sport, porch, borne, story |
24 | CURE | ʊr | ʊə | poor, tourist, pure, plural, jury |
25 | happY | ɪ | ɪ | copy, scampi, taxi, sortie, committee, hockey, Chelsea |
26 | lettER | ər | ə | paper, metre, calendar, stupor, succo(u)r, martyr |
27 | commA | ə | ə | about, gallop, oblige, quota, vodka |
GA=General American English(米国の標準的な発音)、RP=Received Pronunciation(英国の標準的な発音)
このリストはどのような役に立つのでしょうか?
例えば、troughという英語の単語があります。このtroughの-oughの母音はどのように発音するか、ということを知りたい場合、一つには、発音記号で説明する方法があります。
ただ、困ったことに、発音記号というのは、人によって、かなり表記が違います。例えば、同じ単語でも、辞書によって発音記号での表記が違うことがかなりあります。
そのため、発音記号で書かれていても、その辞書なら辞書の発音表記のルールを知らないと、troughの母音をどのように発音してよいかわからない場合があります。
それよりは、むしろ、「troughの母音は、cloth, cough, broth, cross, long, Bostonの母音と同じだ」と言ってくれれば、もし自分がこれらの単語の発音を知っていれば、それと同じ発音をすればよいので、わかりやすいのです。
また、これらの単語の代表としてCLOTHをキーワードとすることに決めていれば、「troughの母音はclothの母音と同じだ」と言えばいいわけです。つまり、発音記号で示すよりも、わかりやすいわけです。
ほかの単語との関連も付けられるため、頭のなかの整理もしやすくなります。
Standard Lexical Setの注意点
ただ、Lexcial Setは結構わかりにくい点もあります。
1.GAとRPそれぞれにおいて、発音は同じなのに、別のセットに分かれている場合があります。
例えば、RPにおいて、THOUGHT, NORTH, FORCEの母音はすべて同じです。母音が同じなのに、なぜ別のセットに分類されているかというと、GAにおいて発音が違うことになっているからです。
つまり、もしRPだけの母音リストを作るのであれば、これら3つのセットは一つにまとめられるはずですが、GAで別のセットに分かれるので、RPでも分けている、ということです。
また、GAではTRAPとBATHの母音は同じですが、RPにおいて違っているので、GAでも分けています。
つまり、ある方言においては分かれていなくても、別の方言では分かれている場合、一番細かく母音の発音が分かれている方言に基づいて、セットを分けているようです。
そのため、もしこの2方言よりさらに細かく母音の発音を分ける方言を記述する場合は、さらに細かくセットを分ける必要が出てくると思います。(具体的にそのような方言があるかどうかは、わかりませんが)
2.現在では同じ発音に統合されているのに、別のセットに分けてある場合があります。
具体的には、GAのNORTHとFORCEの母音は別だと書かれていますが、このLexical Setが考案されたのは1970年代らしく、その時には、アメリカのある地域ではこの2つの母音を別に発音していたところがあったようです。
ただ、現在では、同じ発音をするのが標準的なため、これを見ると戸惑うと思います。
3.GAとRPの発音の差が、長音記号があるかないかだけの場合があります。
例えば、FLEECE, GOOSE, THOUGHTなどは、GAでは長音記号があり、RPでは長音記号がない、というのが発音上の差になっています。
ただ、辞書を見ると、両方とも長音記号を書くものもあるし、両方とも長音記号を書かないものもあるので、ここはあまり気にしなくていいのではないかと思っています。
以上、WellsのStandard Lexical Setを簡単に紹介しましたが、意外と、これは英語の様々な方言を理解するのに、役立つのではないかと思っています。